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有害捕獲数から見えるもの

有害鳥獣捕獲(以下、有害捕獲)とは、「農林水産業又は生態系等に係る被害の防止の目的で鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵採取等を行うこと」である。「原則として各種の防除対策によっても被害が防止できないと認められた時に行う」というのが基本的方針とされている。

一方、特定外来生物アライグマの定着は全国レベルの問題となって久しい。平成16年(2004年)に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)ができ、翌年、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行令」でアライグマが指定された。その後、次々に自治体でアライグマ防除実施計画が策定され、「人間生活および生態系への被害の低減や防止」を当面の目的とし、「野外からの完全排除」を最終目標として捕獲を進めている。捕獲罠の貸し出しや、報奨金制度のある自治体もあり、積極的に捕獲が行われており、外来生物法に基づく防除による捕獲として、有害捕獲以外にも獲られている。

有害捕獲は、外来種でも在来種でも、同じ目的で行われる。人間生活や産業、および生態系等に被害を与える、またその恐れがあれば、捕獲申請できる。個体数調整や加害個体の排除等を通して、被害を低減させる狙いがある。図1は、タヌキ、アナグマ、アライグマの有害捕獲およびアライグマ防除捕獲数の変遷であるが、年々増加傾向が見て取れる。


図1.食肉目3種の有害捕獲およびアライグマ防除捕獲(外来生物)数の変遷(2003~2012年度)

タヌキによる農業被害は毎年(獣類による被害金額の0.7~2.0%程度)報告されているが、増えているとは言い難い(図2)。アナグマに関しては、全国統計の表にも載らないレベルである。対して、アライグマによる農業被害は増加傾向にある(図3;2002年度の被害面積は疑問ある数字ではあるが)。表1は、2003~2012年度の10年間のアライグマの有害捕獲数とタヌキおよびアナグマのそれとを相関分析したものである。相関係数が±0.9を超えるとは、「ほぼ完全な相関関係がある」という意味である。が、これは驚くに値しない。なぜなら、加害種(個体)の分からない農地などで、罠に掛かった個体を「有害捕獲」とするからである。ハクビシン等を含め、被害がある(かも)と申請すれれば有害捕獲できる。捕獲個体は、“犯行現場”に居た咎で加害個体とされ、処分される。もう一度、有害捕獲データを見てみる。仮に、雑食で適応能力に極めて優れたアライグマにおいて、その分布の拡大と個体数の増加が進んでいるとすれば、農業被害も増加すると考えられる(図3)。そこで、有害捕獲が多く行われるようになり、捕獲努力量が上がることで在来種の捕獲も多くなったとも考えられる。



図2.タヌキによる農業被害の変遷(2000~2013年度)



図3.アライグマによる農業被害の変遷(2000~2013年度)


表1.アライグマの有害捕獲数に対するタヌキとアナグマの有害捕獲数の相関係数(2003~2012年度)



問題は、アライグマの“外来生物法に基づく防除による”捕獲と在来種の有害捕獲との関係である。外来生物法は、在来種が維持する生態系の保護も目的としてできたはずである。だからアライグマの「野外からの完全排除」を目指し、捕獲率が低くなったとしても、捕獲努力を続ける前提だ。表2は、アライグマが外来生物法に基づいて捕獲され始めた平成18年度(2005年度)から、「外来生物法に基づく防除による捕獲数」とタヌキとアナグマの「有害捕獲数」との相関である。相関係数が±0.9を超えるとは、「ほぼ完全な相関関係がある」という意味である、とは前段落でも述べた。普通、±0.4~0.5を超えれば、「怪しい関係」を疑う。

表2.アライグマの防除捕獲のある都道府県における防除捕獲数に対するタヌキとアナグマの有害捕獲数の相関係数(2005~2012年度)


 
外来種が増加することで、在来種の有害捕獲や混獲が増加するような法律や現場対応であるとすれば、生態系を支える在来種は護れない。いや、脅威とさえなってしまう。「生態系等に係る被害」を懸念するのに、在来種への影響は無視では済まされないはずだ。外来種の存在だけでなく、その防除対策自体が、在来種の脅威となっているなら ば、看過されてはならない。防除実施計画には、錯誤捕獲を避けるようにとの記述があるものもあり、またターゲットのアライグマだけを捕獲するために、いくつか罠が紹介されている(安部ほか2006; 山﨑ほか2011;奈良山2014)。しかし、これらが現場で使用されるのは稀であろう。外来生物以外が捕獲された場合にすみやかに放逐されていれば、表2のような極めて高い相関は見られないだろう。

農業被害は深刻な問題である。放置は許されない。しかし、各種の防除対策によっても被害が防止できないと認められた時に行うことが原則の有害捕獲現場で、十分な防除対策が行われているかどうか疑わしい。捕獲を含めた被害対策の効果や、被害との費用対効果を勘案して行われているとも思えない。また、捕獲する場合、野生動物管理に有用なデータである捕獲努力量(=罠数×夜数)は記録・集計して、後の対策に活かしてほしい。

ちょっと都道府県の相関で気になるのは、アライグマと同じような、若干狭いニッチを持つと考えられる在来種のタヌキとアナグマの相関係数がプラスマイナス真逆な千葉と鳥取である(表2)。もし、捕獲努力量が増えている、または一定なのに、捕獲数が減ってくるとすれば、それは地域個体群密度の減少だと言えないだろうか。種の根絶を目指す「外来生物防除捕獲」と、おもに農業被害対策としての「有害捕獲」は、本来、全く別物である。

言うまでもないが、外来生物防除に取り組む自治体の努力は評価されるべきである。誰が好き好んで甚大な労力をかけ、健康な生き物を捕獲し処分するものか。但し、「ただ多く獲ればいい」から脱却して、いつどこで捕獲するか、また繁殖抑制手法等も視野に入れた、本当に効果のある防除計画の実施が必要だと思う。外来生物防除や農業被害防除には、長期的展望が不可欠である。長期的展望に立てば、「高くつく」や「手間がかかり過ぎる」という理由で採用されないような防除手法も、有効に成りうるかも知れない。

現状の問題点のまとめ

♦ 外来生物法におけるアライグマ防除捕獲と共に、在来種が有害捕獲されているかも知れない。
♦ 有害捕獲の「各種の防除対策によっても被害が防止できない場合」という基本的方針が、形骸化している恐れがある。
♦ 選択的捕獲手法や繁殖抑制手法などが、現場に導入される余地はあるのか?

引用文献

阿部 豪, 青柳 正英, 的場 洋平, 佐鹿 万里子, 車田 利夫, 高野 恭子, 池田 透, 立澤 史郎.2006. 北海道におけるアライグマ捕獲のためのEggTrapTMの有効性と混獲防止効果の検証. 哺乳類科学 46(2): 169-175.

山﨑 晃司 , 佐伯 緑 , 廣原 正則. 2011. 在来種の混獲防止トリガー付きアライグマ捕獲罠の有効性について. 茨城県自然博物館研究報告 14: 27-31.

奈良山 雅俊.「アライグマ 巣箱で捕獲 来月、知床で実験」朝日新聞デジタル2014-2-17. http://www.asahi.com/area/hokkaido/articles/MTW20140217010500001.html(2015-12-8確認)

Midori Saeki: Behind the numbers of culling
『たぬき道』73号より転載.