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タヌキ研究の傾向

1.はじめに
 何かの研究を始める動機には色々あろうが,@「興味・好奇心」A「身近だった,または周りに引きずられて…」B「名誉・金銭などの世俗欲」C「社会で必要とされているから」D「分かっていないから」E「今までの研究に疑問または比較する価値があるから」などが挙げられる.「なんとなく」始めた人も,研究費を調達したり,論文の序説を書くまでにはそれなりに「研究目的」を明らかにせねばならない(←冗談です).一般的に,@〜Bで始めても,C〜Eに移行していくのが,研究者として後ろ指を指されない処世術である(←これも冗談です).@を失っちゃったら研究なんかやってらんないしョ(なぜにタメ口?).
 このDとEについて不可欠なのが,文献調査である.ここで,タヌキの文献(自然科学)にどんなものがあるかをまとめ,タヌキ研究の変遷や傾向を明らかにしたい.今後,タヌキの研究をしようかという奇特な人のための手助けにもなればと思う(ここらでえらいまじめ).

2.調査方法
 査読のあるなしに関わらず,学術的文献であると判断したものを938調べた.海外の古い文献は,主にオックスフォード大学の動物学部図書室で検索または入手した.論文または要旨が入手できないものは,題を英訳し研究分野を判断した.また,研究の拠点の国,地域および出版年を整理した.文献は学術論文,書籍,卒業・修士・博士論文,学会発表要旨,無記名記事に分け,傾向の分析には726の学術論文のみを使用した.なお,研究分野は以下の7つに分類し,一論文で複数の分野も有りとした.

0: General/Taxonomy/Systematics/Distribution
(概論・分類学・分布)
1: Ecology/Behavior/Natural History
(生態学・行動学・自然史)
2: Physiology/Reproduction
(生理学・生殖)
3: Morphology/Anatomy
(形態学・解剖学)
4: Pathology/Parasitology/Epidemiology
(病理学・寄生虫学・疫学)
5: Genetics/Phylogeny/Evolution/Paleontology
(遺伝学・系統学・進化学・古生物学)
6: Human Related Aspects
(人間に関わること)
7: Other/Unknown
(その他・不明)

3.結果と考察
 研究の拠点の国別に見ると,41カ国中,日本が223報と,2位のフィンランドの108報の倍以上であったが,これは論文収集者の筆者が現在日本在住の日本人であり,日本語の論文を手に入れやすいのも一因であろう.ロシアは63報,旧ソ連諸国とすると77報になる.そしてドイツ,中国,ポーランドと続く.地域別に見ると,ヨーロッパが306報(東欧125・西欧65・北欧116)で,アジアの269報を抜く.
 図-1に地域別の論文数変移を示す.1990〜1995年をピークに,最近になって論文数は増えていない.地域別に見ると,毛皮獣として価値があったり外来種として問題視されたりした東欧(ロシア西部を含む)ではピークが早いこと,アジア(主に日本)で1980年後半に多いことが伺える.


 表-1に論文分野の内訳を示す.ただし,一つの論文で複数の分野に亘るものは,重複して数えた.分類や分布の記述論文が多く,次いで生態学関係と狂犬病や寄生虫などの論文が多い.

                 表1.論文の分野内訳

分野

論文数

概論・分類学・分布

195

22.6

生態学・行動学・自然史

175

20.3

生理学・生殖

131

15.2

形態学・解剖学

42

4.9

病理学・寄生虫学・疫学

159

18.4

遺伝学・系統学・進化学・古生物学

87

10.1

人間に関わること

57

6.6

その他・不明

16

1.9


 分野を上位5カ国で見ると,国別の特徴が現れる(図-2).分布拡大が懸念された西部ロシアやドイツでは分布報告関係が多く,タヌキが養殖毛皮や狩猟獣として価値のあったフィンランドでは,生理・生殖関係と生態関係が多い.中国では最近の系統・遺伝関係の論文の割合が他国より多くなっている.日本は研究分野における偏りが一番少ないが,これも論文数が多いことと,論文収集効率が良いことが影響しているかもしれない.


 
 今後,キーワードなども整理してさらに詳細な分析を行い,タヌキの研究における偏りや流行などを示したいと思う.そして,何が分かっていないのか,何を追究すべきかの指針としたい.

4. 終わりに
 この拙文を書くにあたり,タヌキ文献要約集(Tanukiological Abstracts 2007)を使用した.この要約集は情報を追加して毎年改訂している.

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Midori Saeki: Trend in scientific research on raccoon dogs
『たぬき道』55号より転載.